■このページについて
 今回、科研費『初等中等教育におけるクリティカルシンキングを促すゲーミング教材の開発と評価(課題番号:22500883)』で、クリティカルシンキングを促すゲーム教材を作成しましたので、研究成果の公開を兼ねて、紹介させていただきたいと思います。

■ゲームの目的
 このゲームは、楽しクリティカルシンキングを経験してもらうことを目的として作りました。本来は「楽しくクリシン」なのですが、「く」が重なっているので、「楽しクリシン」という名称にしています。
 従来クリティカルシンキング教育(クリシン教育)は難解な論理学や直観的に誤りやすい判断の心理的特徴の理解などを中心に進められてきました。しかし、論理学も心理学も慣れるまで一定の訓練が必要であったり、直観的に誤りやすいがゆえに修正しづらいなど、それを吸収し、自らの行動に取り入れるには多くの困難さが横たわっています。そうなると、有効なクリシン教育となるためには、それを受講する生徒・学生側は挫折せず乗り越えるだけの動機づけが求められ、教員側には、それを乗り越えるまで惹きつけるだけの魅力を提供することが求められます。これでは、すべての生徒・学生がクリシンを身につけることは非常に難しいことになります。
 そこで、クリシンをすることが楽しいという経験をすることで、クリシンに対する動機づけを維持・強化できる教材を開発することにしました。ゲーミングという手法は、その点ではとても適した方法の1つであると考えられます。
 ただし、単に「楽しい」印象を与えるだけがゲーミングの利点ではないと考えます。つまりゲーミングは、単に「チョコレートで包んだブロッコリー」ではありません。それは、世の中で学ぶ事柄の多くは、実際にやってみて実感することでさらに理解が深まる(あるいは、やってみないと理解できないことがある)という特徴にあります。クリシンもその1つで、ゲーミングを通じて教科書以外で実践してみることが有効であると考えました。その意味でもゲーミングという手法はやってみて学ぶのに適した方法であると考えます。

■ゲームの内容
 このゲームは、日常的に出会うであろう事柄を題材にした課題文に対して、「なんでやねん!」とツッコミを入れるゲームです。クリシンでは、物事の主張が正しいかどうかを自発的に考え、場合によってはそれではよくないという判断を下せる必要があります。正しいかどうかを考えようとする際、重箱の隅をつつくような、あるいは頭ごなしに否定するようなやり方では、たとえクリシンとしては正しくても、今の日本の文化のなかでは受け入れられない場合がでてくるかもしれません。これではクリシンを(たとえできるとしても実際に)しようとする人は増えてくれないと思います。
 その点で、関西弁の「なんでやねん!」は、やや明るい印象とともに、ほかの人が思いつかなかったような新しい視点を持ち込むことを高く評価しやすいとてもよい決め言葉です。なので、ゲームのルールとして「楽しくツッコむ」ということをやってもらうことにしました。

 課題文に対して、まず1人目がツッコみます。それを受けて2人目がもっとよいツッコミができると思えば、そのツッコミに対してさらにツッコむことができます。2人がツッコミを入れた場合は、残りの3人でどちらがよい「ツッコミ」であったかを判定してもらいます。勝ったほうは手札が1枚減り、負けたほうは1枚手札を追加しないといけません。
 このように、よい「ツッコミ」をするプロセスと、どちらがよい「ツッコミ」であるかを評価するプロセスにおいて実際にクリシンをしてもらおうというのがゲームのねらいとなります。

 詳しくは南(2012a;2012b)を参照ください。

■課題文の例
 今回、以下のような課題文を10問作成しました。対象年齢によって改変していくことが必要であると思います。
<社会的論調> 最近若者の旅行離れが広がっています.高校生の妹はネットで写真を見て海外に行ったつもりになっているらしい.これだからインターネットは人をダメにする.

<因果関係> 私は毎朝きちんと朝食をとって学校に行っていたので,優秀な成績をとることができた.だから,朝ごはんをとることはとても大事である.

■ツッコミカード
 今回、以下の4つのツッコミを指定しました。対象年齢によって改変していくことが必要であると思います。
1)○○だから〜としても,逆が成り立つとは限らないのでは?
2)それは「たまたま」かもしれないのだから,他の可能性もあるのでは?
3)そもそも○○が〜って正しいの?
4)結論が一般化し(飛躍し)すぎなのでは?

■ゲームの様子
 ゲームの様子を知ってもらうために、ゲーム実験の一部を字幕入りで紹介させていただきます。楽しんでいる様子が伝わるとうれしく思います。


もし動画のリンクが切れている場合は、こちらから


■ゲームの効果
 ゲームの参加者の多くは楽しかったという感想を出してくれます。その点では一定の効果があるのではないかと期待できます。もちろん、実際にその有効性を検証する必要がありますので、検証もおこなっています(南,2012a;2012b)。まだ十分な効果とはいえないかもしれませんが、今後も検証をおこなっていく予定です。

■ゲームの配布
 南(2012a;2012b)を参照いただければ、ご自身でもカード一式をつくれると思いますが、要望があれば、データ(原稿)をお送りすることはできます。データはエーワン製マルチカード名刺サイズを想定してつくっていますので、そちらを用意していただければそのままカードとして使っていただけると思います。
 なお、データの管理上、メールを送っていただき、添付にて返信するというプロセスをとりたいと思います。お手数ですが、南minami[@に変えてください。]edu.mie-u.ac.jpまでその旨ご連絡ください。

■ゲームの改変に関するお願い
 非常にシンプルなゲームですので、出典を明記していただければ、課題文やツッコミカードを対象年齢に合わせて改変することはかまいませんが、よろしければ改変したバージョンが完成しましたら、南minami[@に変えてください。]edu.mie-u.ac.jpまで改変版の報告をお願いいただきたいと思います。さらに欲張りなお願いですが、改変版を実施した際のプレイヤーの反応(学術的な指標などは必要としません。実施者の感想、感触で結構です)を合わせて教えていただけるとうれしく思います。

■ゲームの著作権について
 今回、科研費でゲームを開発しましたので、無償で配布をしたいと思います。ですが、いわゆる「教育目的」以外での使用はご遠慮願います。(ないとは思いますが)営利目的など万一それ以外での使用を検討されている場合は南minami[@に変えてください。]edu.mie-u.ac.jpまでご相談ください。

■学会での紹介・文献
南 学 2010 クリティカルシンキングをうながすゲームの開発 日本シミュレーション&ゲーミング学会2010年度秋季全国大会発表論文集,13-14.
南 学・土口佳純 2011 クリティカルシンキングをうながすゲーム教材の効果 日本教育心理学会第53回総会発表論文集,291.
元吉忠寛 2011 社会的クリティカルシンキングと教育実践 応用哲学会2011年臨時大会ワークショップ「クリティカルシンキングの学際的教育実践」
南 学 2012a クリティカルシンキングをうながすゲーミング教材の開発と評価 三重大学教育学部紀要
南 学 2012b クリティカルシンキングをうながすゲーミング教材の開発と評価(2) 三重大学教育学部附属教育実践総合センター紀要,33,7-12.